建築を旅してplus

室蘭市 編 ①

旧室蘭駅舎

 室蘭は古くから天然の良港として知られていました。

 1892年(明治25年)に夕張炭鉱から採掘される石炭輸送のため、岩見沢-輪西(室蘭)間に北海道炭礦鉄道が開通されると、室蘭は小樽と共に石炭積出港として、発展をとげるようになりました。

 さて、1912年(明治45年)に早くも、三代目室蘭駅舎として建てられたのが、この建物ですが、平成9年に新駅舎完成後、その役割を終え、現在は室蘭観光協会として活用保存されています。

 道内駅舎の中で最古の木造建築物とされており、1999年(平成11年)には、国の有形文化財に登録、さらに平成22年には、JR北海道の「準鉄道記念物」に指定されています。

 なお、1980年(昭和54年)に大改修が行なわれましたが、当時のイメージを保存するようにとの意向が当時の国鉄からあったそうです。 

 今までにも、この建物を訪れたことはありますが、何となく通り過ぎてしまい、建物を観察したという記憶はありません。今回は、じっくりと観察してみました。 

 

 外観は寄棟造りの大屋根と、そこに取り付く六つのドーマー窓が見えます。

 車寄せとなる正面玄関の両袖には雁木がつながっており、外壁は白漆喰で茶色の木部のコントラストが、建物を引き立たせています。

 軒下には補強に装飾を兼ねたブラケット(持ち送り)が備えられ、洋風建築を意識していることがわかります。

 さらに、車寄せの天井を見上げますと、花飾りなどの浮き彫りが施された漆喰仕上げになっており、待合室の天井にも装飾(花模様・龍・鳳凰などの中心飾り)が施されるなど、細部にわたる設計へのこだわりが伝わってきます。

 だいぶ昔ですが、柾葺き職人として、改修工事にかかわったという方から、お話を伺ったことがありますが、旧室蘭駅舎に携わったことに大変なプライドをお持ちになっているという印象を受けました。記憶の建築としてのみならず、古建築の保存・再活用というのは、今日的な深い意義を持っています。今後は、今以上に、まちの顔となる存在になってほしいものです。

 

竣工 - 1912年(明治45年) 

構造・規模 - 木造2階建 1,032.85㎡

所在地 - 室蘭市海岸町1丁目5番1号                            設計者 - 不明

受賞歴・指定等 - 国の登録有形文化財、JR北海道の「準鉄道記念物」

室蘭市 編 ②

知利別迎賓館

 知利別迎賓館は、大手製鉄会社の社宅街に建てられた社員クラブです。  

 当初は幹部職員の職員倶楽部や来賓の接待所として利用されており、終戦直後は進駐軍に接収、宿泊所となったこともあったといいます。格式高い建物という証でしょうか。

 

 白壁に濃紺の屋根、中央にある三角屋根の尖塔が建物に気品を添えています。

 内装はアール・デコと和風が混在しているという話しですが、残念ながら非公開のために見ることができていません。ぜひ見てみたいものです。

 

竣工 - 1940年(昭和15年)

構造・規模 - 木造3階建

所在地 - 室蘭市知利別町4丁目27-1

施工者 - 戸田組 

室蘭市 編 ③

輪西屯田兵旧火薬庫

 かつて、現在の室蘭市輪西町から東町にかけて、屯田兵村が築かれていました。ロシア軍の南下に備え、海上防衛の重要な役割を担ったものです。

 屯田兵とは、明治時代に北海道の警備と開拓にあたった兵士とその部隊のことで、1874年(明治7年)に制度が設けられ、翌年から実施、1904年(明治37年)には廃止されています。

 現在の中島神社周辺は、輪西中隊本部用地で、周辺に220戸の屯田兵村が開かれていましたが、本部庁舎や兵家などの諸施設は全て焼失し、兵村・中隊の付属施設であったこの旧火薬庫だけが残され、現在の中島神社境内に保存されているものです。

 なお、この輪西屯田兵村での農耕開拓にあっては、海岸低湿地の塩害や海霧に妨げられ、農作物はすべて枯死するなど、農業定着には失敗しています。

 

竣工 -1887年(明治20年)頃

構造・規模 - 木造平屋建、木造切妻・平入り

所在地 - 室蘭市宮の森町1丁目中島神社境内

設計者 - 北海道庁

指定等 – 室蘭市文化財

室蘭市 編 ④

旧山越山口紙店

 旧室蘭駅舎向かいの高台を登っていくと、かつて室蘭経済の中心地であったという「札幌通り」に突き当たります。

 この道路沿いにある赤煉瓦の建物が旧山越山口紙店です。

 さて、この山越山口紙店の創業は1912年(明治45年)にさかのぼります。

 明治初期に山形県から札幌へと来道した山口直次郎氏は、日鋼の営業開始を受けて、明治45年に室蘭に入り、茶・紙・文具卸小「山口商店」を構えます。

 順調な業績であったことから、1923年(大正12年)には、室蘭地方唯一といわれた煉瓦造2階建瓦葺のこの建物が竣工しています。

 

 外観を見ますと、瓦屋根に赤煉瓦、太く縁取った窓額縁が重厚さを演出していますし、妻壁の丸窓は可愛らしさを演出しています。

 1階が煉瓦造、2階は木骨煉瓦造、桟瓦葺切妻屋根になっています。かつては1階が商業スペース、2階、小屋裏が倉庫になっていたそうです。

 煉瓦を観察しますと、建物隅角部の付け柱部分をオランダ積、壁はイギリス積、さらに特殊な形状の鳩胸煉瓦を使用した軒蛇腹など、凝った意匠です。

 小屋組はキングポストトラス構造になっているんだそうです。

 

竣工 - 1923年(大正12年)

構造・規模 - 煉瓦造一部木骨煉瓦造2階建

所在地 - 室蘭市海岸町2丁目5-8

室蘭市 編 ⑤

多田薬局本店倉庫

 1907年(明治40年)に長野県から来蘭した多田光次郎氏は室蘭の輪西町で多田薬局を開局します。その2年後には現在の中央町へと移転しています。

 現在も使われている多田薬品本店の煉瓦倉庫は1925年(大正14年)に竣工したもので、鉄筋コンクリート造になっています。

 外壁にはスクラッチタイルを貼り、軒下には貝殻をモチーフにしているのでしょうか、興味深いデザインのテラコッタ装飾が施されています。アールデコ的ですが、ヨーロッパの古典建築にも類似の意匠が見られます。

 さらに窓枠にはスチールサッシが使われるなど、当時の最新の技術を駆使した建物といえます。なお、隣の薬局は昭和になって増築したものです。

 

竣工 - 1925年(大正14年)

構造・規模 - 鉄筋コンクリート造2階建

所在地 - 室蘭市中央3丁目4-14

施工者 - 伊藤組

室蘭市 編 ➅

旧三菱合資会社室蘭出張所

 この建物は旧三菱合資会社室蘭出張所として1915(大正4)年に建築された木造2階建の事務所です。

 戦時中は日本石炭の事務所として、戦後は三菱鉱業の室蘭営業所として利用されました。

 現在は、一般社団法人むろらん100年建造物保存会が所有しております。

 建物には下見張りの外壁に上げ下げ窓など、懐かしい建築様式が見られます。

 

竣工:1915年(大正4年)

構造・規模:木造2階建

所在地:室蘭市緑町2番地1

室蘭市 編 ⑦

室蘭チキウ岬灯台

 チキウ岬灯台は、室蘭市にあるチキウ岬(地球岬)に立つ白亜八角形の灯台です。

 チキウとは当て字で、アイヌ語の「ホロチケウエ」に由来します。「ホロ」は「大きい」、「チケウエ」は「断崖」という意味です。

 

 「日本の灯台50選」「土木学会選奨土木遺産」に選定されており、また「地球岬の絶景」は室蘭八景になっています。

 

竣工:1920年(大正9年)

構造・規模:鉄筋コンクリート造

所在地:室蘭市母恋南町

受賞歴・指定等 :日本の灯台50選、土木学会選奨土木遺産

室蘭市 編 ⑧

北海屋

 北海屋は明治末に建てられましたが、創業は1923年(大正12年)とあります。戦後1947年(昭和22年)に大規模改修が施されました。

 現在は道路を挟んで胆振総合振興局の正面に位置しています。

 何と言ってもファサードに貼付けられた銅板の緑青が特徴的です。

 

竣工:明治末

改修:1947年(昭和22年)

構造・規模: 木造3階建

所在地: 室蘭市海岸町2丁目4-2

設計者: 大橋貢(社長)

施工者: 桜庭某(棟梁)、梅原某(棟梁)