建築を旅してplus

倶知安・ニセコ編①

旧比羅夫小学校 ー 自然生活体験センター冒険家族

 大阪でサラリーマン生活を送っていた阿南さんは、当時から土日になると地域の子供たちを近くの海や山へと引きつれ、自然と触れ合う活動を実践していました。 

 平成3年には、さらに活動を発展させようと、家族と共に北海道へと移住します。 

 自然体験場の施設探しに来た彼らの目に留まったのが、野鳥観察小学校として有名だったこの建物、旧比羅夫小学校です。 

 昭和62年から廃校となっていたため、窓も割れ、雨漏りもひどい状態でしたが、自力で居住部分の補修や教室を改造して宿泊室や学習室にするなどのリノベーションを行ない、1993年(平成5年)には、滞在型自然&体験センター「冒険家族」をオープンさせます。

 羊蹄山やニセコ連山に囲まれる素晴らしいロケーションの中で、さまざまな自然・生活体験が楽しめると、多くの利用者が訪れています。 

 九州出身の阿南さん御夫婦が、もがきながらも道内屈指の豪雪地帯を生きぬいてきた、知恵と経験が活動の礎になっているのでしょう。  

 さて、建物ですが、外観は切妻屋根の木造平家で外壁は下見板張りという、当時の典型的な小学校建築です。郷愁を感じさせてくれますね。

 

建築:1936年(昭和11年)

構造・規模 :木造平家

所在地:倶知安町比羅夫145-2

倶知安・ニセコ編②

旧寒別小学校 ー FAF工房

 校門を通って、奥に目をやると木造平家建ての切妻屋根、外壁は下見板張りというノスタルジックな校舎が見えてきます。 

 鉄板はかなり古い平葺きですが、手入れが行き届いているように見受けられました。

 建物もさることながら、何といっても、背後にそびえ立つ羊蹄山の雄大な姿に感動しました。 寒別小学校は明治44年に開校していますが、この建物は1937年(昭和12年)に建てられたもので、昭和59年には閉校となってしまいました。  

 京都生まれの林雅治さんは兵庫県篠山町(現:篠山市)で創作活動を行なっていた陶芸家ですが、子供たちを雄大な自然が残る北海道で育てたいと、北海道への移住を決意します。そして、たどり着いたのがこの旧寒別小学校だったのです。 

 この新天地で陶芸活動を行なうこととなり、工房をFAF工房(フロンティア・アート・ファーム)と名づけます。 

 2つの教室の内、1つをアトリエに、もう1つをギャラリーとして再活用しています。

 私が訪れた時、ご主人は羊に餌を与えている最中で、お話をすることができませんでした。残念です。帰り際に奥さんの作品(陶器の皿)を購入させてもらいました。大切に使っています。

 

建築:1937年(昭和12年)

構造・規模 :木造平家

所在地:倶知安町寒別103

倶知安・ニセコ編③

ばぁちゃん家 ─ ニセコ町

 建築における脱構築主義(デコンストラクティビズム)という様式があります。

 ポストモダン建築の一派であり、代表的な建築家にザハ・ハディドやフランク・ゲーリー、コープ・ヒンメルブラウなどがいます。

 彼等の大胆な作品を持って、これが脱構築主義だというのであれば、日本にその作家はいないことになってしまいます。

 しかし、目を凝らしてみてください。皆さんの住む都市にも、この様式が控えめに使われているはずです。

 私が好きなのは、コープ・ヒンメルブラウ作:ウィーンの「ファルケ街屋上改造」です。石造建築の屋上にガラスの昆虫のような造形が乗った前衛作品です。

 また、日本ではウシダ・フィンドレイ・パートナーシップの一連の作品が、ザハ・ハディド作品の先駆けのようにも見受けられます。

 なお、布谷東京ビル(ピーター・アイゼンマン、東京都江戸川区中央 1992年)は日本を代表する脱構築主義でしたが、解体されてしまいました。私も足を運びましたが雑誌で見るほど、大胆な印象は感じられませんでした。阪神大震災の直後でしたので、その変形した造形に違和感がありましたね。

 いろいろ書きましたが、この脱構築主義の形態は多様であると言うことです。

 しかし、だからといって、「ばぁちゃん家」と脱構築主義を結びつける人はいませんが、私にはどこかで繋がっているように感じられるのです。

 

 さて、ようやく本題です。

 この「ばぁちゃん家」はご両親のために設計したものです。

 本来は垂直に立つべき直方体が、田園風景が広がる大地に斜めに突き刺さったような外観、このバランス感覚が何といっても特徴であり、見る者に驚きと感銘を与えます。

 内部は3層に分かれ、2・3階は天井か床が途中から斜めになっており、空に向かって大きなガラス面が開かれています。

 何故、このような意匠になったかというと、まずはゲニウス・ロキなんでしょうか、加えて、強い西風を避けるため、そして玄関部分の雪かきを楽にするため、さらに羊蹄山の眺望を楽しむためだそうです。

 また、倉本龍彦の作品は、この「ばぁちゃん家」や「旧たくん家」など、ネーミングが可愛いですよね。

 なお、2013年にばぁちゃん家の設計図面(原図)5枚と写真がパリのポンピドゥー国立芸術文化センターの国立近代美術館に永久収蔵されています。

 

竣工:1972年(昭和47年) 

構造・規模:木造3階建 149㎡ 高さ10m 傾き45度 幅7.2m 奥行き13.5m

所在地:虻田郡ニセコ町字曽我263-1

設計者:倉本たつひこ建築計画室

施工者:石塚建設